この国には何でもある.だが,希望だけがない.2009年11月01日 21時44分49秒

タイトルの文面は,最近読み終えた小説の一節です.
希望の国のエクソダス (文春文庫)
村上龍氏の小説です.ネタバレになりますが,内容を少々書きます.

設定は2000年頃の日本.「失われた10年」にどっぷりはまっている頃です.物質的な豊かさは手に入れたが,将来に対する不安がたっぷりという日本.その中で,中学生たちが既存の学校制度に異議を唱え,全国で一斉に不登校になるという事件が発生.彼らは学校に行かず,コンピューターネットワークで繋がりあい,世の中を変えていこうとする.

初出は1998〜2000年の文芸春秋連載.でも,小説の中での日本の状況は2008〜2009年にだいぶ当てはまるところがあります.村上龍氏はこの小説を書くにあたり,綿密な取材を重ねています.
『希望の国のエクソダス』取材ノート
私の母校に行った様で,小説の中に出てくる,問題の中心となる中学校の校舎の形状がよく似ています.また,中学生の行動ですが,「40年近く前のうちの学校に似ている」という事もあります.小説の中では校長を生徒が取り囲んでその地位から引きずり下ろす程度で済んでいますが,うちの学校は当時は校長代行(教員免許のない人)が悪事を働いていました.それに反発した生徒(中高一貫校)が反発した訳ですが,学校側の要請で機動隊が突入してきて,それを生徒が排除したとか,校長代行が中高含めて1ヶ月半,学校をロックアウトしたとか,校長代行が学校の資産を勝手に売却,横領したとか,凄まじい歴史がありました.「事実は小説より奇なり」といったところでしょう.
小説の中の中学生たちは,あまりに進歩しすぎています.ネットワークを介して行っている事は,今からするとGoogleに近いでしょうか.技術を持つのでいろいろな事をやるが,「やってはいけない」という歯止めの部分が欠如している面がしばしば見られます.また,「中学生だけのネットワークコミュニティ」はうまくいかないでしょう.ゆびとま甚大なトラブル発生が報じられ,再建がうまくいっているのか分からないですし,mixiは会員が増えすぎて閉じたネットワークというにはどうかという状況です.(私は前者の元会員で,後者には参加しておりません)
さて,若い人たちが現状を打破してくれるのでしょうか.不満を持つ若い人は中学生ではなく,むしろ「子ども手当」の対象外となる高校生ではと思います.ただ,「ゆとり教育」の悪影響で学力,気力を奪われた生徒たちが,団結して立ち上がるかというと難しいと思います.小説のあとがきにいろいろな人が文章を寄せていますが,「ゆとり教育の意義をすり替えて日本の教育をメチャクチャにしたお前が語るな!」とツッコミを入れたくなりました.