宇宙の加速膨張の観測にノーベル賞2011年10月05日 08時52分09秒

2011年のノーベル物理学賞は に贈られました.1998〜1999年頃にIa型超新星を観測し,宇宙膨張が加速しているという証拠を突き止めたということです.
今回の受賞者は40〜50代と,近年の受賞者に比べると若いです.この発見が当時の科学誌で既に「今年一番の大発見」と注目されておりました.
次はこの加速膨張の要因を突き止めるという問題があります.加速膨張を引き起こすような様々な理論モデルが提唱されていますが,それを検証するのは遠方天体の観測です.また,遠方天体の分布を表す理論が構築されております.遠方天体の分布を表する理論と加速膨張を起こす理論モデルを組み合わせた理論予測を観測と比較し,加速膨張の要因は何かを調べることになるでしょう.(私も遠方天体の分布を表す理論の論文はいくつか書いております)

光速より速く動くニュートリノ?2011年09月23日 21時22分53秒

高エネルギーのミュー型ニュートリノの速さを世界最高精度で精密に測定(名古屋大学プレスリリース)
OPERA実験で,CERNから発射されたミュー型ニュートリノが730km離れたイタリアの検出器で検出された際,光速で届く場合よりも1億分の6秒速く届いていたという事です.
特殊相対論から導出される相対論的力学では,質量のある粒子の運動量は,光速に近づくと無限大に発散します.つまり,質量のある粒子は光速に到達できないというわけです.
ニュートリノに質量があるという話は,例えば戸塚洋二氏率いるスーパーカミオカンデグループの「ニュートリノ振動の検出」で示されています.今回の観測は,光速に到達できないどころか,光速を超えてしまうという話になります.
実験結果の精密な再検証,他の機関での追実験がなされるでしょう.ただ困った事に,日本ではスーパーカミオカンデにニュートリノを打ち込むT2K実験を行った加速器J-PARCは,東日本大震災で大変な被害を受けたので当分復旧できません.

物理学者から見た原子力利用とエネルギー問題2011年05月03日 18時02分12秒

日本物理学会が6月10日に以下の様なシンポジウムを開催します.

物理学者から見た原子力利用とエネルギー問題

  • 日時:平成23年6月10日 13:00−18:00
  • 場所:立教大学池袋キャンパス 太刀川記念館3階多目的ホ-ル(150 名収容可能)
  • 対象:物理学会会員

申込については特に書いていません.先着順のようです.

今回の事故,最初の情報提供が不徹底だった事,政治家の会見が「直ちに健康に害を及ぼすものではない」というような不適切だった事も原因で,政府や専門家の発表よりも情報源の不確かな情報を信じる方々が一部に居るようです.あまりにも非論理的でめちゃくちゃな事を発言している人にはうんざりです.有用な情報を検索エンジンで探そうとしても,ノイズが多すぎて困っています.
改めて文系,理系を問わない科学教育論理的思考の重要性を痛感致しました.「子どもの学力低下」がよく問題になりますが,「大人の科学技術に対する知識の欠如」も相当なものだと思います.

昨日の問題の訂正2010年12月07日 17時55分57秒

昨日出題した問題に誤りがあったので訂正します.90分ではなく6時間とします.
私が計算する時に1ヶ所間違えたようです.実際にこの設定でコンピューターを使って計算すると,4時間32分ほどで落下します.

高校生の挑戦求む!2010年12月06日 22時23分29秒

江戸時代に「算額」と呼ばれる額が神社に奉納されました. 数学の問題を記した絵馬の事です.ここにいろいろあります.ある種の挑戦状の様な意味合いのものもあったようです.高校,大学レベルの問題もあり,当時の日本の数学のレベルが高かった事が推測できます.

さて,私が一時的に受け持った高校生は今年度,大学受験です.希望通りの進路に進めるか,大いに気になるところです.とはいえ,あっさり進むようだと「日本全体の学力レベルが下がっている」という事を痛感させられるのですが....少なくとも私が高校生の頃よりは,全体的には下がっていると思います.(上位層には優秀な若者が今でも居ますが,層が薄くなっている様に感じます)

さて,そんな高校生に物理の問題です.
今年は小惑星探査機はやぶさが地球に帰還しました.帰還の際,最後に地球の重力で落下して燃え尽きました.
これを踏まえた問題です.

地球の半径を6400[km],表面での重力加速度を9.8[m/s^2]とします.静止衛星は地球の上空36000[km]のところを回っています.これは静止衛星が地球の周りを24時間で一周する様にぐるぐる回る事により,遠心力と地球からの重力が釣り合っているため,落ちてこないのです.
もし高度36000[km]の位置で衛星が静止していた場合,地球の表面に6時間以内に落下する事を示しなさい.(時間制限に誤りがあるので,12/7に訂正しました)
地球が球だという事を使ってもいいです.また,重力では「地球の質量と同じ質量の質点を,地球の代わりに地球の中心の位置においた場合,地表の位置の重力は変わらない」という性質があります.(詳しくは大学1年の力学で扱います)
答えが分かった人は,コメント欄に解法と連絡先を記していただければ講評します.私の解答時間は,暗算で10分程度です.