情報伝達は冷静に判断してから2011年05月05日 22時48分19秒

先ほど,とあるブログでとんでもない情報を見つけました.
どこかのメーリングリストからの転載らしいのですが,福島第一原発から約30km南のところにいた少年が,急性放射線障害で亡くなったという情報です.
この情報は科学的に考えて,かなり疑わしい点がいくつもあります.約30km南で死者が出たとすると,飯館村ではもっと深刻な被害が発生している事でしょう.現地の作業員ならばなおさらです.
明らかにデマです.情報源が「友人の友人」だったり,病院が特定されなかったり,重要なポイントが全て曖昧です.
震災以降,情報が氾濫しています.情報に振り回されず,真偽を見極めて判断する能力が必須になっていると言えるでしょう(ただ,これは急ごしらえでは難しいと思います).
その前に注意しなければいけないのは,真偽不明の情報を拡散した時点で,拡散した人もデマ発信の片棒を担ぐ事になるという事です.内容次第では,違法行為にもなり得ます.十分にご注意ください.

期待できそうなOpenCLの日本語テキスト2010年01月18日 23時31分57秒

数値計算の分野では,一昔前はCRAY-1のような「ベクトルコンピューター」がもてはやされました.現在はコストパフォーマンスの面から,PCで使われるようなプロセッサを多数組み合わせる「並列コンピューター」が使われる事が多くなってきました.いずれも,単体のCPUを使う場合に比べ,プログラミングに工夫が必要です.
ここ1,2年は消費電力,コストパフォーマンスの面から,グラフィックチップ等を数値計算に使うGPGPUと呼ばれる技法が注目されています.グラフィックチップのメーカーにより,プログラミングの方法が独自に発展していて,いくつものメーカーのものを使いこなす事が難しい状況でした.現在は様々なプロセッサでプログラミングを行うためのオープンな規格として,OpenCLというものが策定されてきています.
今日は,もうすぐ発売のOpenCLのいいテキストをご紹介.OpenCL入門 - マルチコアCPU・GPUのための並列プログラミング - というものです.著者は,CELLやTeslaといった特殊な(超並列)プロセッサでのコード開発に従事してきたフィックスターズの方たちです.OpenCLのいい日本語のテキストがなかったので,セミナーをたびたび開催している専門家たちが執筆したテキストとなると,非常に期待が持てます.
立ち読みはこちらから出来ます.私はよさそうだと思い,予約注文したところです.

京速計算機の動向2009年05月17日 17時04分57秒

先週気になったのはこの辺りのニュースです. 最初のものは,富士通がSunと共同開発しているSPARCプロセッサシリーズで,最速のものを参考展示したという事です.128GFLOPS,8コアでIntel CPUより2.5倍速く,消費電力が1/3との事です.スカラプロセッサ単体としては最速でしょう.後述のベクトルプロセッサですと,NEC が少し前にSX-9で100GFLOPSを超えています(しかもシングルコアで).GRAPE-DRのチップならばもっと速いですが,単体では動かないので加速装置と考えられる事がしばしばです.
後のニュースは非常に困った事です.ベクトルプロセッサを開発しているNECが,次世代スーパーコンピュータ(京速計算機)の製造プロセスから撤退するということです.また,日立も同時に撤退するとの事.日立の大型計算機はIBMのPOWERシリーズのプロセッサを使用しているので,おそらくHDDなどのストレージ開発に強みがあるのではと思いました.
京速計算機はこちらにありますように,着々と設置場所の工事が進んでいます.もともとはベクトルプロセッサ,スカラプロセッサ,それから特定計算に強いプロセッサを搭載する予定でしたが,まず特定計算の部位が外れました.この部位は活用が難しいので,今までのソフトウェアの移行が困難という事もあるでしょう.ただ,今回のベクトルプロセッサの撤退につながる話は非常に痛いでしょう.ベクトルプロセッサは,地球シミュレータにも盛んに用いられているプロセッサです.「GFLOPS当たりの理論性能がコストに見合わないのでは?」と言われていますが,ソフトウェアの実効性能ではスカラプロセッサに長じるところがまだまだある訳です.地球シミュレータで培ったソフトウェアの開発技術を京速計算機に生かそうと思っていた研究者たちにとって,今後どうするのか非常に悩むところかと思います.
今後,このようなスーパーコンピューターはどうなるのでしょうか.
  • RoadRunnerのように,異種混合にする.
  • Blue Geneのように,安価で消費電力が安く性能もそこそこなプロセッサを膨大に並列化させる.
  • 地球シミュレータのように,ベクトルプロセッサの並列でいく.
などなどありますが,そのあたりの事は国立天文台の牧野さんのスーパーコンピューティングの将来をご覧になるといいでしょう.
地球シミュレータ開発の時,NEC はSX-5シリーズを1チップ化して採用し,この技術をベースにSX-6を開発しています.現在はSX-9に置き換えられ,性能が当初の約3.2倍になっています.当初のものはTOP500で2年半ほど『世界最速』とされ,アメリカに多大なショックを与えた様です.
NECのベクトルプロセッサ開発の行方に大きく影響を与える今回の決定,どうなるか注目していきたいと思います.

Fortran本が増えている?2009年05月10日 20時09分15秒

科学技術計算のプログラミング言語として開発されたFortranですが,ここ十数年は大型計算機でもC, C++コンパイラを備えている事が多く,狭い分野でも押され気味に見えます.
2000年頃に書店にFortranのテキストを探しに行くと, と,絶版になったソフトバンクの本くらいしか Fortran90 に関するテキストが書店の店頭にありませんでした.Fortran77 のテキストをみると,パンチカードの話が出てきたり,方眼紙のようなプログラムを記述するためのノート(行頭を6文字空けなければいけないから)がついていたりと,恐ろしく前近代的な書籍が店頭に実在していました.
このまま衰退するのかと思いきや,あらためて『Fortran のテキスト』ということで検索してみると,沢山の本が出てきます.しかも Intel Visual Fortran の本までもあります.
私が把握している Fortran の規格は,66は使った事が無いので 77, 90/95 あたりまでですが,その後に Fortran 2003 というメジャーバージョンアップがあり,さらに Fortran 2008 なる規格まで発表されています.徐々に Fortran に無くて C/C++ にあるものを取り込んでいるように見えます.今後,どの言語が廃れ,どの言語が生き延びるかは,コードを書く者に取っての死活問題でしょう.
ちなみに私の実用的なプログラミングの経験の量は,
Fortran>>(BASIC)>C, C++≧Java(>>Pascal)
といったところでしょうか.

日本初の商用メールマガジンの話(その6)2009年03月29日 22時20分18秒

Internet Watchは創刊して前述のようなネット上の問題を検討したり,あるいは配信トラブル等も発生したりしましたが,徐々に落ち着いて発行できるようになりました.1998年のある時,ふとした連絡が来ました.編集長の山下氏が病気で入院との事.今まで編集作業があまりに過酷で体調を崩されたのだろうと,最初は思いました.ところが入院がかなり長引き,退院した時は以前は丸々とした体型がげっそりとやせていました.ただ事ではありません.
その後,体調の問題やECマーケティングに挑戦するということで,山下氏はインプレスダイレクトに移籍しました.
私は山下氏の大きな影響を受けて,専門分野の研究を大学院で進めながら,情報系の事柄にも詳しくなっていきました.「論理的に明解な説明をするにはどうすればいいのか?」という点でも,大きく影響を受けたと思います.
2000年夏,私は修士論文の成果を取りまとめて,初の海外での国際会議発表に出かけます.行き先はイタリアのローマです.この頃からすでにノートPCを持ち込んで,ローミングサービスを利用してメールのチェックを行っていました.日本に共同研究のネットワークも出来始めていて,情報交換が必要だったからです.
7月8日の朝,ローミングサービスを使ってメールを受信していると,とんでもない見出しが飛び込んできました.それは訃報の二文字でした.開いてみると,山下氏がわずか34歳で亡くなったとの知らせでした.あまりにも早い死に大変な衝撃を受けました.その直前にもメールのやり取りがあったと思うので,にわかに信じられませんでした.何はともあれ,葬儀には駆けつけなければならない状況でしたが,私は出張中でそれはかないませんでした.その日の夜,同僚が相部屋にも関わらず,ベットで泣きじゃくった事を覚えています.
山下氏の思想は,Ken's homepageで今も保存されています.永遠に更新されないページですが,どういう人物だったかという一端を見る事が出来るでしょう.
その後に拝見した追悼文archive.orgの保管記事)により,直前の状況が分かってきました.家族を愛し,仕事を愛し,インターネットの遠い将来を見据えて活動していたのだと思います.
現在,インプレスグループでは山下氏は特別功労者として会社概要に役員とともに列挙されています.
私は,もうすぐ山下氏が亡くなった年を追い越します.今の私の姿を山下氏が見たら,どう思うでしょうか.「そんなに進路をフラフラしていては,だめじゃないか」と叱り飛ばされるかもしれません.一日一日を怠惰に過ごす事無く精進しなければと思う次第です.

最後に山下氏に関する記事を列挙します.