Dirac、対称性を求めて2008年12月18日 21時56分18秒

UK-JAPAN2008のクリスマス企画で,ディラックの記事の続きです.
ディラックは理論に数学的美しさを求めました.その現れが大数仮説,磁気単極子の提案です.
電気にはプラスの粒子(陽子),マイナスの粒子(電子)があります.ところが磁石はかならず N 極と S 極が共存します.磁石を割って細かくしていても,二つの極が存在します.N極だけ,S極だけの磁石を作る事は出来ません.
ところで19世紀の終わりに電力と磁力は互いに結びついている事が分かりました.両者の振る舞いを記述する方程式は,符号が逆になるところがあったりはするものの,電気と磁気を入れ替えればそのまま成り立つようなものの組み合わせになっています.ところが電気はプラスだけ,マイナスだけのものがあるのに,磁石にはN極だけ,S極だけというものはありません.自然界の数学的美しさ,対称性を重んじたディラックは,磁力にも一方だけのもの(単極子)があるのではないかと提案します.この粒子(磁気単極子)は予言から60年経ちますが,現時点では未発見です.
大数仮説はもっと大胆な提案です.原子の中の事を考えているうちに,ディラックは宇宙のどこでも成り立つ数があるのではと考えました.例えば水素原子の中の陽子と電子の間に働く力は,電磁気力と重力があります.しかし力の大きさは,電磁気力が重力の10の40乗倍も強いのです.次に,宇宙の年齢と,陽子の半径を光が横切るのに必要な時間を比較すると,前者が後者の10の40乗倍も長いのです.さらに,この宇宙に存在する核子(陽子と中性子)の数は,10の80乗倍です.10の80乗倍は10の40乗倍の2乗です.
このように宇宙の構造を考えると,10の40乗がマジックナンバーとして浮かんできます.そこでディラックは逆に,この宇宙は10の40乗で結び付けられる関係が成り立つ様に構成されていると考えます.さらに,宇宙は徐々に進化しています.宇宙の年齢が延びると,陽子の半径も延びたり,さらには重力と電磁気力の関係も時間的に変わるだろうと考えました.これがディラックの大数仮説です.
ディラックは大胆な提案と数学的な美しさを追求しました.この思想は著作にも現れています.
最初の本はブラケット記法を駆使した量子力学の教科書です.日本語訳は出版されましたが,今は絶版のようです.朝永振一郎が翻訳しています.量子力学を学ぶ人は,一度は目を通しておきたい名著です.また,リストに挙げた様に一般相対性理論に関するテキストも執筆していますが,エッセンスだけが書いてあるような本なので,これだけで学ぼうとすると大変かもしれません.
28歳で王立協会会員,30歳でケンブリッジ大学のルーカス教授職に就き,67歳で引退.その後フロリダ大学教授となり,アメリカで生涯を終えました.

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