美しい理論を求めて。Dirac ― 2008年12月18日 21時36分15秒
UK-JAPAN2008のクリスマス企画として執筆している記事の続きです．昨日の予告通り，ディラック（1902〜1984年）について書いてみます．
もともとはブリストル大学で電気工学を学び，19歳で大学卒業後に数学科に入って相対性理論を学び，ケンブリッジ大学で物理学を学んでいます．学位取得は24歳の時です．
ディラックの理論を端的に表すと，大胆でかつ美しさを追求したものといえるでしょう．執筆論文から主だったところを挙げてみます．
この中で特筆すべきは，まず相対論的波動方程式です．1925年にシュレーディンガーが，1926年にハイゼンベルグが量子力学の基礎方程式を発表しました．これらの方程式は電子などの運動を考える際に大変威力を発揮します．ところが，特殊相対論と相容れないという問題がありました．これを解決するためにクライン-ゴルドン方程式が発表されますが，この方程式には粒子の存在確率が負になるという問題がありました．そこでディラックは新たな数学（クリフォード代数）を導入して，確率が負にならない相対論的量子力学を構成します．これが現在，ディラック方程式と呼ばれる方程式です．
同時にこの頃，現在では『ブラケット』と呼ばれる記法を用いた量子力学の理論を用いています．
ディラック方程式は電子を相対論的に扱えますが，その性質をよく調べてみると，エネルギーが正だけではなく負の粒子も現れてしまいます．この負のエネルギーの粒子は何かを解釈するのにかなり悩んだようですが，大胆にも電気的に反対の電子（陽電子）を予言します．陽電子が1932年に実験で見つかり，1933年にわずか31歳でノーベル賞を受賞します．
長くなったので，この後の活躍は次に書きます．
もともとはブリストル大学で電気工学を学び，19歳で大学卒業後に数学科に入って相対性理論を学び，ケンブリッジ大学で物理学を学んでいます．学位取得は24歳の時です．
ディラックの理論を端的に表すと，大胆でかつ美しさを追求したものといえるでしょう．執筆論文から主だったところを挙げてみます．
- 1927年 輻射の放出，吸収に関する量子論
- 1928年 相対論的波動方程式（ディラック方程式）
- 1931年 陽電子の存在を予言
- 1937年 大数仮説
- 1948年 磁気単極子（モノポール）の存在を提案
この中で特筆すべきは，まず相対論的波動方程式です．1925年にシュレーディンガーが，1926年にハイゼンベルグが量子力学の基礎方程式を発表しました．これらの方程式は電子などの運動を考える際に大変威力を発揮します．ところが，特殊相対論と相容れないという問題がありました．これを解決するためにクライン-ゴルドン方程式が発表されますが，この方程式には粒子の存在確率が負になるという問題がありました．そこでディラックは新たな数学（クリフォード代数）を導入して，確率が負にならない相対論的量子力学を構成します．これが現在，ディラック方程式と呼ばれる方程式です．
同時にこの頃，現在では『ブラケット』と呼ばれる記法を用いた量子力学の理論を用いています．
ディラック方程式は電子を相対論的に扱えますが，その性質をよく調べてみると，エネルギーが正だけではなく負の粒子も現れてしまいます．この負のエネルギーの粒子は何かを解釈するのにかなり悩んだようですが，大胆にも電気的に反対の電子（陽電子）を予言します．陽電子が1932年に実験で見つかり，1933年にわずか31歳でノーベル賞を受賞します．
長くなったので，この後の活躍は次に書きます．
Dirac、対称性を求めて ― 2008年12月18日 21時56分18秒
UK-JAPAN2008のクリスマス企画で，ディラックの記事の続きです．
ディラックは理論に数学的美しさを求めました．その現れが大数仮説，磁気単極子の提案です．
電気にはプラスの粒子（陽子），マイナスの粒子（電子）があります．ところが磁石はかならず N 極と S 極が共存します．磁石を割って細かくしていても，二つの極が存在します．N極だけ，S極だけの磁石を作る事は出来ません．
ところで19世紀の終わりに電力と磁力は互いに結びついている事が分かりました．両者の振る舞いを記述する方程式は，符号が逆になるところがあったりはするものの，電気と磁気を入れ替えればそのまま成り立つようなものの組み合わせになっています．ところが電気はプラスだけ，マイナスだけのものがあるのに，磁石にはN極だけ，S極だけというものはありません．自然界の数学的美しさ，対称性を重んじたディラックは，磁力にも一方だけのもの（単極子）があるのではないかと提案します．この粒子（磁気単極子）は予言から60年経ちますが，現時点では未発見です．
大数仮説はもっと大胆な提案です．原子の中の事を考えているうちに，ディラックは宇宙のどこでも成り立つ数があるのではと考えました．例えば水素原子の中の陽子と電子の間に働く力は，電磁気力と重力があります．しかし力の大きさは，電磁気力が重力の10の40乗倍も強いのです．次に，宇宙の年齢と，陽子の半径を光が横切るのに必要な時間を比較すると，前者が後者の10の40乗倍も長いのです．さらに，この宇宙に存在する核子（陽子と中性子）の数は，10の80乗倍です．10の80乗倍は10の40乗倍の2乗です．
このように宇宙の構造を考えると，10の40乗がマジックナンバーとして浮かんできます．そこでディラックは逆に，この宇宙は10の40乗で結び付けられる関係が成り立つ様に構成されていると考えます．さらに，宇宙は徐々に進化しています．宇宙の年齢が延びると，陽子の半径も延びたり，さらには重力と電磁気力の関係も時間的に変わるだろうと考えました．これがディラックの大数仮説です．
ディラックは大胆な提案と数学的な美しさを追求しました．この思想は著作にも現れています．
最初の本はブラケット記法を駆使した量子力学の教科書です．日本語訳は出版されましたが，今は絶版のようです．朝永振一郎が翻訳しています．量子力学を学ぶ人は，一度は目を通しておきたい名著です．また，リストに挙げた様に一般相対性理論に関するテキストも執筆していますが，エッセンスだけが書いてあるような本なので，これだけで学ぼうとすると大変かもしれません．
28歳で王立協会会員，30歳でケンブリッジ大学のルーカス教授職に就き，67歳で引退．その後フロリダ大学教授となり，アメリカで生涯を終えました．
ディラックは理論に数学的美しさを求めました．その現れが大数仮説，磁気単極子の提案です．
電気にはプラスの粒子（陽子），マイナスの粒子（電子）があります．ところが磁石はかならず N 極と S 極が共存します．磁石を割って細かくしていても，二つの極が存在します．N極だけ，S極だけの磁石を作る事は出来ません．
ところで19世紀の終わりに電力と磁力は互いに結びついている事が分かりました．両者の振る舞いを記述する方程式は，符号が逆になるところがあったりはするものの，電気と磁気を入れ替えればそのまま成り立つようなものの組み合わせになっています．ところが電気はプラスだけ，マイナスだけのものがあるのに，磁石にはN極だけ，S極だけというものはありません．自然界の数学的美しさ，対称性を重んじたディラックは，磁力にも一方だけのもの（単極子）があるのではないかと提案します．この粒子（磁気単極子）は予言から60年経ちますが，現時点では未発見です．
大数仮説はもっと大胆な提案です．原子の中の事を考えているうちに，ディラックは宇宙のどこでも成り立つ数があるのではと考えました．例えば水素原子の中の陽子と電子の間に働く力は，電磁気力と重力があります．しかし力の大きさは，電磁気力が重力の10の40乗倍も強いのです．次に，宇宙の年齢と，陽子の半径を光が横切るのに必要な時間を比較すると，前者が後者の10の40乗倍も長いのです．さらに，この宇宙に存在する核子（陽子と中性子）の数は，10の80乗倍です．10の80乗倍は10の40乗倍の2乗です．
このように宇宙の構造を考えると，10の40乗がマジックナンバーとして浮かんできます．そこでディラックは逆に，この宇宙は10の40乗で結び付けられる関係が成り立つ様に構成されていると考えます．さらに，宇宙は徐々に進化しています．宇宙の年齢が延びると，陽子の半径も延びたり，さらには重力と電磁気力の関係も時間的に変わるだろうと考えました．これがディラックの大数仮説です．
ディラックは大胆な提案と数学的な美しさを追求しました．この思想は著作にも現れています．
最初の本はブラケット記法を駆使した量子力学の教科書です．日本語訳は出版されましたが，今は絶版のようです．朝永振一郎が翻訳しています．量子力学を学ぶ人は，一度は目を通しておきたい名著です．また，リストに挙げた様に一般相対性理論に関するテキストも執筆していますが，エッセンスだけが書いてあるような本なので，これだけで学ぼうとすると大変かもしれません．
28歳で王立協会会員，30歳でケンブリッジ大学のルーカス教授職に就き，67歳で引退．その後フロリダ大学教授となり，アメリカで生涯を終えました．
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