寡黙の研究者,Cavendish2008年12月26日 11時13分50秒

UK-JAPAN2008のクリスマス企画で書いているイギリスの物理学者の話です.今日は研究所にも名を残しているキャベンディッシュ(Henry Cavendish,1731〜1810年)です.
家系はイギリスの公爵家です.両親とも貴族の出身です.父は第2代デボンシャー公(2nd Duke of Devonshire)の5男でポートランド公爵チャールズ・キャベンディッシュ,母はケント公4女のアン・グレイです.そのためかニュートンとライプニッツのような先取権争いをする事なく,自分の成果も慎ましく保管しておき,表に出す事がほとんどありませんでした.ケンブリッジ大学のトリニティカレッジに通っていましたが,学位を取得しておりません.
両親から莫大な財産を受け継いだものの,生活は大変質素で,他人との接触も避けていたようです.そのため,自宅に図書室や実験室を作り,隠遁生活を続けながら次々と発見を繰り広げました.主なものでも以下の通りです.
  • 1766年 水素ガスの発見
  • 1772年 静電学での逆2乗則(後にクーロンが1785年に発表)
  • 1781年 オームの法則(オームが1827年に発表)
  • 1797〜1798年 地球の比重の測定→万有引力定数を算出する方法(いわゆるキャベンディッシュの実験
  • 水素から水への合成
  • 潜熱,比熱,熱膨張,融解について
  • 静電容量の測定
  • 電気量と電位の区別
キャベンディッシュの実験を説明します.図の様に重い球を二つ,天秤の様に吊るします.そこにもう一つ球を近づけていくと,一方が引力で引き寄せられます.すると天秤を吊るしている針金がねじれます.針金はねじれると元に戻そうとする力が働くので,この復元力と引力が釣り合うところを調べれば,引力が分かります.球の質量と球の間の距離を測定しておけば,万有引力定数が分かるという理屈です.たぶん物理の教科書ならば,たいてい載っているでしょう.
ところで,これらの成果ですが,Philosophical Magazineに18篇の論文を出した以外は,生前には公表されませんでした.上記の様に,彼の成果は後に他の研究者が『再発見』したものも少なくありません.
さらには女性を避けていたために独身で,数多くの使用人とのやりとりもノートを用いて行い,顔を見る事もなかったそうです.最期も使用人が気付いたら実験室で既に亡くなっていたということのようです.
死後の1861年,キャベンディッシュの一族だった第7代デボンシャー公爵のウィリアム・キャベンディッシュがケンブリッジ大学の総長に就任します.当時のケンブリッジ大学では,物理学の研究所の必要性は認識していたものの,作る資金が不足していました.そこで総長は,必要な資金を大学に寄付し,一族であるヘンリー・キャベンディッシュを顕彰して『キャベンディッシュ研究所』と名付けます.
キャベンディッシュの成果は,後のキャベンディッシュ研究所初代所長になるマクスウェルによって整理され,1879年に出版されます.

The Electrical Researches Of The Honorable Henry Cavendish: Written Between 1771 and 1781
Henry Cavendish 著,J. Clerk Maxwell 編

先日記しました様に,この研究所からは数多くのノーベル賞受賞者を出しています.研究所単体では,世界最多との事です.