Hawking 博士の偉業2008年12月15日 22時04分02秒

UK-JAPAN2008にちなんで,クリスマスあたりまでイギリスに関係する科学の解説を載せていこうと思います.クリスマスレクチャーとはほど遠いですが,興味のある方はどうぞ.
スティーブン・ホーキングは「車椅子の物理学者」ということでよく知られているのではないでしょうか.21歳で「筋萎縮性側索硬化症」と診断され,呼吸は呼吸器で行い,眼と指先だけが動かせる状況です.特別なコンピューター付き車椅子で文章を作成し,人工音声でコミュニケーションを取っています.
大変な苦難を長年抱えているにも関わらず,発病後に画期的な研究を次々と行っています.たとえば以下のような感じです.
  • 1965年:ロジャー・ペンローズと共同で「特異点定理」を発表
  • 1971年:原始ブラックホール生成の理論を発表
  • 1974年:ブラックホールの蒸発理論を発表
  • 1977年:曲がった時空における量子論での,ゼータ関数を用いた正則化の理論を発表
  • 1983年:ジェームス・ハートルと共同で宇宙の波動関数に理論(無境界仮説)を発表
  • 1992年:時間順序保護仮説を発表
これでも挙げたものは一部です.一般にはブラックホールの蒸発理論がなじみがあるでしょう.
他のものを簡単に説明すると,「特異点定理」は宇宙に適用するとビッグバンが避けられないという事です.宇宙がある大きさの範囲で大きくなったり小さくなったりする事はできないという事を,一般相対性理論の範疇で示しています.
原始ブラックホールはちょっと変わっています.重い星の進化の最終段階でできると考えられていたブラックホールは,太陽程度の質量があります.ところが原始ブラックホールは宇宙の初期に,前述のものに比べてうんと軽いブラックホールができる可能性を示しています.もし存在してブラックホールの蒸発理論と両立すると,現在の宇宙でブラックホールの蒸発の最終段階が見える事になります.
これらの論文は大変な数式を駆使しています.ホーキング本人は「私はこういう状況なので長い計算は無理」との事ですが,とても信じられない成果です.
他にもThe Large Scale Structure of Space-Time (Cambridge Monographs on Mathematical Physics)という本を書いています.一般相対性理論を本格的に学ぶ人にとって,最後の牙城の一つといえる大変難解な本です.この本を書いたのは,ホーキングが28歳の時です.私も持っていますが,きちんと理解したかと聞かれると…というような本でした.

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