レアアースが国際問題に一波乱?2010年01月29日 22時15分03秒

春にいろいろな学会の年会が開かれるため,各学会からメールが届いています.理科教育に関するものがあったので,一年ほど前の授業をふと思い出してみました.

高校1年生の授業で環境問題を扱ったのですが,「指導要領を超越する事を教えていい」とゴーサインをもらいました.そこで,文理問わず重要な事は知っておかなければならないということで,天然資源の枯渇の問題に触れました.最近,この話にだんだん関心が集まってきている様なので,その時の話を若干補足します.

「耐用年数」という言葉があります.確認埋蔵量を年間掘削量で割った年数で,一言でいえば「あと何年で掘り尽くすか?」という年数です.膨大な資料がここにあるので気になる方は見ていただくといいのですが,たいていのものは100年以下です.
この中にレアアース(希土類)というものがあります.元素の周期表の左下の方にあるものです.リンク先では「L」となっているところです.その下の段の「A」はアクチノイドといい,核燃料になるウランやプルトニウムが含まれるので注目される事が多いと思います.しかし「L」はあまり注目されません.ここに含まれる17種類の元素の分離精製が難しいからです.
ところが1982年に住友特殊金属の佐川眞人氏らにより,この中の原子番号60番であるネオジム(Nd)を含む永久磁石が発明されました.この磁石は磁束密度が高く,大変強力です.面積が10円玉ほどで厚さが1cmほどのものであれば,鉄板にくっつけると10kgくらいのものをぶら下げてもずれないのではというくらいです.授業の時に教室に持って行き生徒に見せたところ,2個の磁石をピッタリくっつけられて,剥がすのにとても苦労しました.指を挟んだら怪我をするでしょう.
この磁石,小型でも非常に強力なため,ハードディスクやCDプレーヤーで重宝しています.磁石はモーターにも発電機にも使われるため,将来電気自動車が大々的に普及するとなる場合,小型で強力なモーターを作る事が可能でしょう.今までにもイットリウムを使うレーザーや蛍光体はありましたが,磁石ほどの需要はありませんでした.今後レアアースの需要が大きく伸びそうです.
ところが天然資源の問題として,「産出場所の偏在」が挙げられます.石油が中東諸国に偏在する事はよく知られています.レアアースの産出は,実は中国が全世界の90%以上です.しかもチベットが産出の大部分を占めています.こう考えると,チベット情勢が世界のエネルギー事情にも大きく影響を及ぼしますし,チベットを傘下におさめる事が中国にとって単なる隣国との軍事的緩衝地帯という訳ではない事も想像できるでしょう.
社会問題をこのような天然資源の問題から読み解くという方法も,他の方法に劣らず重要だと思います.社会科学を専攻する方であっても,自然科学のいろいろな物事に関心を持たなければならないわけです.

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