事業仕分け第2弾に対する雑感2010年04月29日 17時07分10秒

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事業仕分け第2弾の独立行政法人の分が終わりました.
通常国会開催中に行うべき事なのかですとか,事業仕分け会場のレンタル料が異様に高いですとか,事業仕分け後に副大臣と仕分け人がもめたですとか,天下り理事の問題が片付いたのかですとか,いろいろな事があると思います.こういう事も大変重要だとは思いますが,研究者の立場で気になった事を挙げておきます.
  1. 国として,科学技術をどう推進するのかが不明確
    現政権の様々な案件に共通する事ですが,「この国をどうしていきたいのか」という根本的な姿勢がよく分かりません.今回の事業仕分けでも科学技術総合会議の事が結論に出てきました.この会議は内閣総理大臣、科学技術政策担当大臣のリーダーシップの下各省庁よりも一段高い立場から科学技術政策を決める会議です.そうなりますと,これらの大臣のリーダーシップがなっていないから迷走していると見る事もできるのではないでしょうか.
    根本となる科学技術政策がはっきりしないのでは,その政策のもとに研究を進める独立行政法人をどうするかという事は,決めようがないでしょう.
  2. 目先の損得にとらわれすぎた感がある
    例えば研究所の随意契約の話で,秘書の給与が高いだの,秘書の数人が研究者の配偶者だのといった話が出てきました.でも,こういう各案件については,監督官庁による独立行政法人の会計監査のレベルで行う事ではないでしょうか.国としての独立行政法人の扱いを決める事業仕分けでは,おおもととなる方針をはっきり決めて,独立行政法人にはそれに準じて契約等の様々な案件を進めていけばいいのではと思います.細かいところを根掘り葉掘りしているうちに時間切れになり,ろくに議論をせずに強引に結論に持っていった感があります.
  3. 「研究は多様性が重要」という事が分かっていない
    研究は目標は一つでも,それに至る道筋はいくつもあります.いろいろな人が様々な道筋を使って挑戦し,成功を目指すというのが研究の理想的な形です.「右向け右」で全員が同じ道をたどっているのでは,画期的な発見は出来ません.分野によってはそういう閉塞的な状況に陥っている研究があり,これぞという進展が見られないように思います.
    一般で有名になった例として,青色発光ダイオード(LED)があります.青色発光ダイオードはもともと,セレン化亜鉛(ZnSe)や炭化ケイ素(SiC)を用いたものがなされていました.明るい青色LEDが窒化ガリウム(GaN)を用いて赤崎勇氏,天野浩氏らにより実現され,それを実用化させるレベルまで持っていったのが中村修二氏です.このように,画期的な発見,発明は様々な道筋による挑戦が大事です.
    「同じ分野の研究をしている独立行政法人は,ひとまとめにして統合する」というのは,こういう考え方に全く反するものです.研究の進め方をよく理解していない方が仕分け人に並んでいたのではと思います.
  4. 研究は短期的な損得で考えてはならない
    極端な例ですが,日本人が4人同時にノーベル賞を受賞した2008年の件で,受賞対象の研究は何十年も前のものです.このような例がありますように,基礎研究は研究成果が出てもそれが世の中に大きく影響を及ぼすまでに時間がかかります.応用よりの前述の青色LEDにしても,製品化し出荷できるレベルになるまで何年もかかっています.短期的な損得にとらわれて,予算の増減を云々する事はそぐわない事です.奇しくも昨日,25学会(38万人会員)共同シンポジウムが開催されました.「我が国の科学・技術の進むべき方向と必要な政策を提言する」と銘打っています.こういう声明にも耳を傾け,国として科学技術を推進するのか,それとも(これはまずいのですが)科学技術推進をやめるのか考える必要があるでしょう.
今の若手研究者,技術者の気持ちを端的に表すと,
この国には何でもある.本当にいろいろなものがあります.だが,希望だけがない.」(村上龍/希望の国のエクソダス (文春文庫)
といったところでしょうか.
現状では若手研究者に「希望を見出すために海外に活路を見出すのがいい」とアドバイスをするしかないほどの閉塞感を感じております.

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