年頭に考えたこと2011年01月09日 21時45分13秒

年頭に様々なメディアを通じて得た情報を元に,自戒も込めて少し考えてみました.
政治,経済,文学等は専門外なので,なるべく科学技術,教育の立場から思うところを挙げてみます.
日本の製品が海外の製品に押され気味という報道を見ました.また,日本の技術が海外に流出しているという報道もあります.今後,日本は少子高齢化社会で労働人口の負担が益々重くなり,国の舵取りをする人たちはどうやって社会福祉政策を進めればいいのか悩むことでしょう.また,食料自給率が低く,化石燃料,鉱物資源等の天然資源も乏しい日本で,どうやってこれだけの人口を養うのかを悩むことでしょう.(悩まない方が舵取りをしたら,滅亡の道まっしぐらでしょう)
私の考えとしては,科学技術立国として日本はこれからも歩んでいくべきであると思います.日本の先端科学技術の高度なレベルは維持していくべきです.製品の販売で,日本製品が売れないからといって,安売り競争をしていったら絶対に勝てません.家電製品で韓国のサムソンに押され気味ですが,もっと大変なのはIT業界です.基本的に「ソフトウェアはネットワークが繋がっていれば,納入できる」からです.私の見ている範囲で,受注は日本で行うが,実際のソフトウェア政策は『インドのシリコンバレー』と呼ばれるバンガロールの様なところで,優秀な技術者が行うという企業があります.日本人に比べて遥かに安い人件費(それでもインド人の平均からは遥かに高い)で喜んで働く人たちが大勢居るのです.価格競争になったら,日本人がインド人と同じ給料で働かされる恐れもあります.これでは無理でしょう.
それではどうするか.日本でしか製造できない,高い技術を結集した製品を作り続けることでしょう.例えばH2Aロケット,(賛否両論はありますが)改良された原子炉,新幹線,ロボット,その他様々な先端技術があります.こういうものを官民挙げて売り込んでいくことが重要かと思います.安い製品が普及したあとは,よりいいものを求めて人々は流れるでしょうから.高い技術で製造した製品を売り,そのお金で日本の生産では不足する分の食料,天然資源を買うという方針で,日本人を養っていくということがいいのではと思います.
高い技術を維持していくには,高い技術を持つ人々を要請しなければなりません.高等教育も含めた教育全般,先端研究(基礎も応用も)を支えていくことが肝心です.「『ゆとり教育』で生きる力を身につけさせる」という触れ込みでしたが,教育現場を見ると全く逆で,気力も学力もない若者が溢れる様になったと感じます(わざわざ「気力,学力ともに乏しい学生を教育できる人」という教員募集を出した大学もあります).内容はともかくとして教育内容の拡充がなされ始めている傾向は,悪くないのではないかと思います.ただ,今の様子では大学以降の高等教育や,巨額の予算がないと立ち行かない科学技術研究に,現政権が重点を置いているかは怪しいところです.
「独立行政法人を全部潰す」ということが今の政権の方針らしいですが,それでは果たしてJAXA原子力機構あたりが担っている役割を,どこが担うのでしょうか.プロジェクト一つに数十億〜数百億円かかり,失敗する恐れもある.これを請け負う民間企業が果たしてあるのでしょうか.また,若手研究者の育成,研究者の研究費を支援する独立行政法人があります.こういう事業を潰すと,将来の日本は科学技術立国でなくなるでしょう.「そんな人たちを優遇することはない」という意見をお持ちの方がいらっしゃるかと思います.こういう人たちは他に換えの効かない人たちです.簡単に探して雇ってくるという訳には行かない人たちなのです.(クイズ番組でいえば,宇治原史規の代わりになる解答者が居ない様なものでしょうか.宇治原史規クラスの解答が出来る理系の研究者がゴロゴロ居るのが,上記の組織です)
「大学生の就職難」が社会問題化しています.様々な原因がありますが,私は理由の一つとして前述の「学生の学力,気力の低下」もあると思います.何もしなくてもどこかの大学には入れる世の中です.私が担当した講義では,工学部にも関わらず中学の数学どころか四則演算すらまともに出来ない学生が居ました.さすがにこれではまずいので単位を出しませんでしたが,なぜ単位が出ないのか分からなかったらしく,抗議を受けました.大学には『神様』と呼ばれる,誰にでも単位を出す先生がいらっしゃいますが,現在の学力レベルを見ると,「中学生レベル」の学生に「大学卒」のラベルを引っ付ける『偽装表示』のような事になっているのではと感じます.前向きに取り組む学生は後押しする一方で,あまりにも学力,気力に乏しい学生を安易に卒業させるのはいかがかなというのが私の考えです.ろくに学問を研鑽せずに社会に放り出すのが,本人にとって果たして幸せなのでしょうか.

今は教育にタッチしておりませんので,かなり好き放題に書いてみました.もし再び大学の教育に携わることになったら,学生たちに「内容がハイレベルで単位の辛い先生」と再び思われるのでしょう.自分ではこれくらい知っていないと,『**大学**学部卒です』と名乗ってもらいたくないというつもりなだけなのです.

とある大学の工学部3年生に出題した正解率70%程度の問題って,こんな問題なのですけど,いかがなものでしょう.
10進数表示で「107」となっている数字を,16進数表示にしなさい.

科学研究費補助金の制度改正2011年01月11日 21時54分13秒

来年度予算が成立するのかが今度の国会の焦点です.
文部科学省の科学技術予算が大幅に増えたという報道があります.特に科学研究費補助金が首相の意向で31.7%も増え,研究者は大助かりになった様に見えます.
でも,実質的には金額は数%しか増えていません.むしろ大きいのは,複数年にまたがって予算を使用できる(基金化)ということです.科学研究費補助金に応募する場合,例えば平成23年は200万円,平成24年,25年は50万円の研究費を使いたいという予算を組んで計画書を提出します.もし何らかの事情により研究が進まない(例えば発売予定だった必要な機材が遅れた,新型インフルエンザ等で海外渡航が無理になったなど)ということになっても,当初の予算はその年度内に1円残らず使い切らなくてはなりませんでした.本当に1円残らずです.普通にスーパーマーケットなどで買い物をしたり,あるいは子どもの時を思い出して遠足のおやつを買うことを考えたりすると,1円単位でぴったり使い切るのは非常に難しいです.そのため,年度末になると大学の売店に1本1円のクリップ,1ブロック(50本)5円のホチキスの針が並びます.これらを最後に買って,残額をピッタリ0円にするのです.私は1円の領収書を切ってもらったことがあります.
無駄な買い物をして予算を使うということも多々見受けられました.年度末に道路工事が多いと言われるのと同じですね.もし繰り越す場合は繰り越し申請という非常に面倒な手続きが必要でした.
それが次年度から採択される科学研究費補助金の大部分で,繰り越し,前倒しが認められる様になったということです.これは税金で研究を進める点において,税金の有効活用の効果は非常に大きいと思います.
もちろん一方でルール改正が行われ,研究成果報告書を提出することが厳密に守られるようにされるようです.研究成果報告書は科学研究費補助金データベースで誰でも見ることが出来ます(ただ,反映が遅いのか,私が今年度はじめに提出したものが未だに掲載されていません).

センター試験2011年01月16日 11時52分19秒

今年もセンター試験が実施される時期になりました.今年は私が担当した約300名の生徒が受験する年です.やりたいこと,挑戦したいことなど,将来に夢を持っている若者たちが希望の進路を歩めるよう,手本となるような行動を示せていない先輩ではありますが,祈るばかりです.
でも,あまりに自分の教え子の進学実績がよすぎると,日本全体のレベルが下がっているのではないかという別の心配も持ち上がってしまうのが難点です.

「遠足は家を出て,家に帰るまでが遠足です」という言葉を小学生のときに何度も聞かされました.今だったら「入試は,家を出て,家に帰るまでが入試です」というところでしょう.くれぐれも電車を乗り間違えて通過駅で緊急停止させるようなことをしないように.それで別の受験生たちを含めた大勢の人たちが迷惑を被る訳ですから.私はこういう事例には出くわしていませんが,車両故障や人身事故で採用面接に向かう予定が狂ったことがありますので.

はやぶさカプセル内の微粒子の初期分析開始2011年01月17日 22時32分46秒

JAXAが小惑星探査機「はやぶさ」のカプセル内に取り込まれた微粒子の初期分析を開始しました.

はやぶさカプセル内の微粒子の初期分析の開始について(JAXA)

太陽系の起源に迫る発見が期待されるところです.

事業仕分けで潰された研究所2011年01月18日 07時33分43秒

昨日で阪神淡路大震災発生から16年.震災で亡くなった方のご冥福をお祈りします.
日本は地震国ですから,地震に対する備えをしておく必要が十分にあります.昨年4月の事業仕分け第2弾でJAXAiが廃止という決断を下されたことはよく知られていますが,同じ日に日本原子力研究開発機構(JAEA)システム計算科学センターが廃止(東京からの移転)という決断を下されたという話をご存知の方は少ないのではないでしょうか.文部科学省が昨年11月に公開した政策評価調書 (PDF)でも,「廃止,移転」と明記されています.移転は確定でしょう.
このセンターで,原子力耐震計算科学研究のワークショップが開催されます.産官学共同で,原発の耐震安全評価等を行うという,地震国かつエネルギーの主要部分を原子力に頼る日本では重要な話です.JAXAiの最終日イベントとは異なり専門家向けなので一般の方の参加は難しいでしょう.
この研究の解説はここにあります.昨年の事業仕分けは仕分け人が研究の重要性,そして産官学連携の重要性を全く理解していなかったことが一番の問題ではないかと,私は思います.