若手研究者に読んでもらいたい文章2010年08月14日 22時52分56秒

20代から30代の若手研究者が,任期のないポストに就く事が非常に難しいという現状があります.人間は苦悩が大きい時,ちょっとした周囲の一言で救われたり,絶望的になったりします.救いの言葉をかけられるのはいいのですが,その言葉が『悪魔のささやき』だったらどうでしょうか.
夏にちょっと気になるものを見つけました.大学院生の時に大変な研究成果を挙げたにもかかわらず,最初は全然評価されず,修士修了後に進学せず,内定していた企業にも行かず,宗教団体に入ってしまった先輩の事です.その宗教団体は「暴力的に国家転覆を企てる団体」で,結果として東京で猛毒ガスによる無差別テロを行いました.
先輩はこのガス散布の実行犯として,死刑が確定しています.今では宗教団体の教義を全否定し,ひたすら被害者に懺悔の日々を送っているそうです.
この方が,別の新興宗教団体に入りそうになっている学生たちに,自分の経験をもとに呼びかける文章を出しています.こちらのページの「学生の皆様へ」を御覧下さい.被害者に手紙を送るのに,下手な字では失礼だからとペン習字を習ったそうです.達筆な文章が約60ページ続きます.これをじっくり読むと,この方は恐ろしい殺人鬼でもなんでもなく,どこにでもいそうな若手研究者が道を外れて後戻りできないところに行ってしまったという感じを受けます.
事件から15年.当時は行き場のない理系研究者が救いを求めてこの宗教団体に流れたという解釈がありました.そうならないように,社会全体で対策を考えなければならないという話もありました.ところで,現在の若手研究者を取り巻く状況は,15年前よりも遥かに悪いです.ポスドクの大幅増加に限らず,大学の人件費削減による教員ポスト削減,若手を中心とした任期制導入,研究機関の研究費を競争型に切り替えた事による過度な成果主義(短期的に成果を挙げられる研究がもてはやされる風潮)などがあります.さらに政権交代で科学技術への予算大幅削減,研究教育機関への事業仕分け等で,この一年は拍車をかけて悪くなっています.
このようなご時世,無差別テロとまでは行かなくても,研究者が『悪魔の誘い』に乗って,とんでもない事をしでかしてしまうのではないかという,悪い予感がして心配です.