京速計算機の動向2009年05月17日 17時04分57秒

先週気になったのはこの辺りのニュースです. 最初のものは,富士通がSunと共同開発しているSPARCプロセッサシリーズで,最速のものを参考展示したという事です.128GFLOPS,8コアでIntel CPUより2.5倍速く,消費電力が1/3との事です.スカラプロセッサ単体としては最速でしょう.後述のベクトルプロセッサですと,NEC が少し前にSX-9で100GFLOPSを超えています(しかもシングルコアで).GRAPE-DRのチップならばもっと速いですが,単体では動かないので加速装置と考えられる事がしばしばです.
後のニュースは非常に困った事です.ベクトルプロセッサを開発しているNECが,次世代スーパーコンピュータ(京速計算機)の製造プロセスから撤退するということです.また,日立も同時に撤退するとの事.日立の大型計算機はIBMのPOWERシリーズのプロセッサを使用しているので,おそらくHDDなどのストレージ開発に強みがあるのではと思いました.
京速計算機はこちらにありますように,着々と設置場所の工事が進んでいます.もともとはベクトルプロセッサ,スカラプロセッサ,それから特定計算に強いプロセッサを搭載する予定でしたが,まず特定計算の部位が外れました.この部位は活用が難しいので,今までのソフトウェアの移行が困難という事もあるでしょう.ただ,今回のベクトルプロセッサの撤退につながる話は非常に痛いでしょう.ベクトルプロセッサは,地球シミュレータにも盛んに用いられているプロセッサです.「GFLOPS当たりの理論性能がコストに見合わないのでは?」と言われていますが,ソフトウェアの実効性能ではスカラプロセッサに長じるところがまだまだある訳です.地球シミュレータで培ったソフトウェアの開発技術を京速計算機に生かそうと思っていた研究者たちにとって,今後どうするのか非常に悩むところかと思います.
今後,このようなスーパーコンピューターはどうなるのでしょうか.
  • RoadRunnerのように,異種混合にする.
  • Blue Geneのように,安価で消費電力が安く性能もそこそこなプロセッサを膨大に並列化させる.
  • 地球シミュレータのように,ベクトルプロセッサの並列でいく.
などなどありますが,そのあたりの事は国立天文台の牧野さんのスーパーコンピューティングの将来をご覧になるといいでしょう.
地球シミュレータ開発の時,NEC はSX-5シリーズを1チップ化して採用し,この技術をベースにSX-6を開発しています.現在はSX-9に置き換えられ,性能が当初の約3.2倍になっています.当初のものはTOP500で2年半ほど『世界最速』とされ,アメリカに多大なショックを与えた様です.
NECのベクトルプロセッサ開発の行方に大きく影響を与える今回の決定,どうなるか注目していきたいと思います.