Anthony Leggett 氏講演会52008年05月18日 21時17分55秒

Leggett 氏の講演会の話で,最後に氏が語った事が印象に残っています.

物理学は実験結果を説明する理論の構築を行ったり,理論からの予言を実験で検証したりして発展してきました.宇宙物理ですと,実験は出来ないので「観測」がそれに変わります.
21世紀は理論と実験(あるいは観測)はよい状況であるということです.量子力学のようなミクロの世界の現象も実験でチェックできますし,一般相対論についても精度の高い観測で検証が出来ています.さすがに超弦理論やM理論のような究極の理論ですと実験や観測とははるかにかけ離れたスケールですので,検証が現時点では出来ません.このために「そんなの物理じゃねえよ」と批判する人たちも居ます.
1900年に Kelvin 卿の講演で「物理学にかげりがみられる」とされました.しかしその一方で1900年には Planck による光量子仮説が提唱され,量子論の幕開けとなっています.また,当時は光を伝える媒質として「エーテル」の存在が考えられていましたが,特殊相対論で「エーテル」は不要であると説明されました.
21世紀の現在では,実は「エーテル」説と似たような状況にあります.宇宙を占めているものの正体は,実は5%ほどしか分かっていません(WMAPグループの観測結果の円グラフ参照).残りのうち,23%は光を出さないダークマターと呼ばれる物質です.これはまだ理解の範疇に含まれるでしょう.ところが72%はダークエネルギーと呼ばれる成分です.その性質は「圧力が負でなければならない」という,常識では考えられないようなものでなければなりません.Einstein の宇宙項がその可能性として挙げられますが,他の問題で引っかかるところがあり,すんなりいきません.こういう状況を Leggett 氏は「宇宙論は19世紀の状況に似ている.」と述べておりました.

また,上で挙げましたが,量子力学と一般相対論の統合はまだうまくいっていません.超弦理論やM理論が候補として考えられていますが,未完成です.

最後にLeggett氏が若手研究者に送るメッセージがいくつかありました.


私が若手に含まれるかは怪しいですが,挙げておきます.
  • 自分の興味に従って,これから生きていってほしい.
  • 自分が疑問に思った事に取り組んで,理解していってほしい.
  • 「自分がやった事が無駄になる」と思わないでほしい.ここでやった事をメモしておくと,後で役に立つかもしれない.
  • 「教える事」と「研究」は同じくらい重要である.
研究生活に入ってしばらく経った自分から見ると,確かにずしりと来るような言葉ばかりです.研究者を目指す大学院生も,技術者になろうという若者も,これらの言葉を心に刻み込んでもらいたいと思います.

Leggett 氏は1966年に,英語で論文を書く日本の物理学者向けに,「どのように学術論文を書けばいいのか」という記事を書いています.日本人が陥りやすいミスを挙げて,より意味が読み手に正確に伝わるような書き方を解説しています.この原文はこちらからダウンロードできます.物理学者に限らず,技術文書を書く技術者に有用だと思います.